預託金問題と不良債権問題(インタビュー)

需給バランスの改善は、預託金問題の次に
ゴルフ場が一度は通らなければいけない道

月刊『ゴルフマネジメント』誌編集長インタビュー

東京グリーン株式会社 早川 治良氏

富里ゴルフ倶楽部とカレドニアン・ゴルフクラブを経営する東京グリーンは、預託金問題と不良債権問題という二つの難題を乗り切った。中間法人の活用で2コースは高級倶楽部を志向する中で、収支バランスを健全化している。早川治良氏は、長くゴルフ場経営に携わられてきた。現在のゴルフ場業界の抱える課題についても伺った。

聞き手 月刊「ゴルフマネジメント」編集長 喜田任紀

喜田 東京グリーンの富里GCとカレドニアンGCの中間法人の活用は法的整理によらない自主再建の成功例として注目を集めました。
そして、遂に無借金経営となられたわけですが、これまでの経緯と、これからのゴルフ場経営について、どのように考えられているのか、お話しいただきたいと思います。

早川 銀行が不良債権処理の中で、当社の銀行借入金約250億円が、平成15年に、㈱債権回収機構(RCC)に譲渡され、RCCとの丁々発止のやりとりがあったわけです。当時、アメリカに所有していたビルがありましたので、それを売却してRCCとの債権債務問題は解決したのですが、それと並行して進めていた中間法人制による預託金問題の解決と2ゴルフ場の経営健全化がもう一つの経営課題でした。

中間法人につきましては、現在85%強の会員が参加してくれています。残る大企業の法人会員につきましては、名義書換時に中間法人に参加して頂けることになっています。

喜田 ずいぶんとご苦労をされたと思いますが、中でも大変だった事を上げていただきますと何でしょうか。

早川 RCCとの交渉も大変でしたが、やはり会員の皆様に中間法人制(間接株主会員制)を認めて頂くことでした。中間法人の活用は、預託金問題を法的整理ではなくて自主再建するための解決策として進めてきましたが、特別委員会を作っていただき、3年ほど時間を掛けました。2年目くらいの時に、会員の方々に納得して頂ける案を作らないとこれは解決しないと悩んでいた頃に、ちょうど服部弘志弁護士から中間法人についてのアドバイスを受けました。会員との話し合いの中で、会社更生法とか民事再生法といったいくつかの方式を説明して、大勢は中間法人制に固まってきたのですが、なかなか決まらないのです。

原因は、経営者が株を持ったまま経営を引き継ぐということに対する不満が当然あったわけです。  そこで、会員に株を半分持ってもらいましょうと、思い切って提案しました。そうすると皆さんビックリしたわけです。私は45%で、皆さんも45%持って下さい。後10%は伊藤忠商事で持って下さい。それで、この案を呑んで頂けたのですが、預託金の問題が決まるまでの3年間は一番苦労しました。難しい問題を一つ一つ解決しなくてはいけないことでしたから、全精力を注ぎ込みました。

喜田 現在の運営はどのように進められているのですか。

早川 取締役11人の内4人が会員の代表です。会社と会員との間の意思の疎通も取れて、良い関係が作れていると思っています。それと、預託金の問題は道義的には私が責任を負っているわけですから、何らかの形でお返ししなくてはなりません。それは、会員のためにプレー環境を良くすることですし、会員権の価値が上がるようにすることです。

これは私に課せられた責務です。時間はかかると思いますが、評価が上がるようにしなくてはいけない。そして、ゴルフ場は永遠に続いていくものですから、私自身がいい形でコースを残したいですし、コースを良くしたい。この点で、メンバーと理念が一致しているのです。

私どもでは、かなり詳しいディスクローズを行っており、経営内容をメンバーにお知らせしています。ここ10年にわたってコース改造なども目いっぱいやってきましたし、これからもさらに良くしたいわけですが、資金の問題を避けては通れません。実は、経営内容をディスクローズしてきたことで、グリーン委員会や運営委員会、中間法人役員会で、コースの質を良くするためなら年会費を上げましょうと、逆にメンバー側から年会費の値上げが提案されました。もちろん改造やリニューアルなど限定使用です。この話は委員会でまとまりつつあります。

喜田 経費削減はどのようにされたのですか。

早川 これは経営会議の会員側役員に著名なエコノミストの方がいらして、昨年のリーマンショック後の見通しで、適切なアドバイスをいただき、早めに手を打ったことが功を奏しました。徹底的に無駄を省き、残業ゼロ、外注費の削減を行いました。サービスの低下を懸念したのですが、やればできるのですね。支配人が中心になって、配置換え、1人が3人分をやる。フロントが、リネンもやる、玄関の清掃もする。マスター室は、キャディ教育とスタート管理の他にコースのメンテナンスの方を手伝う。コース課はその分助かるわけですよ。コース課が一番難しい。質を落とせませんからね。コース課は、作業時間の無駄をなくすように早出と遅出に分けました。

その結果、アルバイトを入れて200人程いた従業員が150人になり、この人数でやれるようになりました。人件費だけですが、前期が5億4000万円、今期4億6000万円。8000万円人件費を削減できました。全員の努力でこうなるのです。もちろん役員報酬も削りました。

喜田 長くゴルフ場経営を見られて、現状をどう見られていますか。

早川 ゴルフそのものが国民スポーツとして大衆化してきましたが、ずいぶんと変わったなという印象を持ちます。カジュアルになることはいいことだと思いますが、それだけではいけないという思いも強く持ちます。

それと、私どもの収支にも客単価の低下がはっきりと出ていますように、価格設定と経営収支のバランスが大変難しくなりました。接待ゴルフからプライベートなゴルフへの転換とともに、需給バランスの問題があると思います。5、6年前までは預託金の問題が中心で経営がおかしくなり、800コースくらいが法的整理をされていますが、これからは本格的な経営倒産が起こるのかと危惧されます。

どの産業でも需給バランスが崩れれば、淘汰されるわけですが、ゴルフ場だけは大きく数を減らすこともなく、その中でコースの質の劣化が進んでいるように思います。やはり淘汰は避けては通れないのではないでしょうか。

喜田 ゴルフ場数の減少はできるだけ避けたい。そのためにも、健全な市場の形成と、東京グリーンで取り組まれたような経営の健全化を是非とも進めて頂きたいと思っています。

『月刊ゴルフマネジメント12月号』P38より。

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