”力と同様に技も”・・・これが、ゴルフの奥深さ (座談会:中部銀次郎、三好徹、早川治良)

[座談会]
中部銀次郎(元日本アマチャンピオン)
三好 徹(作家)
早川 治良(東京グリーン社長)

わが国文壇随一のゴルフ理論家として自他ともに認める三好徹先生と、当クラブの名誉会員であり日本アマチュア六回制覇の中部銀次郎氏にカレドニアンをラウンドし、語って貰った。

生半可の技術では攻め切れぬ

早川 今日は初めて、おこし頂いた三好先生と名誉会員をお願いしている中部さんとラウンド出来て、大変に楽しかったのですが、このコースに対するご感想などを話して頂ければ幸いです。

三好 実はプレー前に高級接待用コースと伝え聞いていたので、私は大変失礼ながら、悪い先入観を抱いていました。 と言うのは、高級接待用と謳われているコースのほとんどが、コース設計に間違った概念を持っているというのが、私の持論でして、どうも悪い印象が先にたっていた。金をふんだんに掛けて、美観を演出する、メンテナンスも行き届いている。キャディのサービスも良い。それはそれで良いとしても、肝心のコース設計のコンセプトは間違っている。
つまり、接待用のコースはやさしい設計にして誰でも良いスコアが出せて、気持ち良くお帰り頂くという方式が圧倒的に多いわけです。なかには、ゼネラル・ルールを無視して、スコアを良くするためのローカル・ルールを作るところもある。要するにゴルフの原点を逸脱しているのが多い。ところが、この「カレドニアン」はまったく違っていました。
コースは池やクリーク、マウンドを大胆に導入しているし、景観としては見事に綺麗である一方、ボールを打ってみると実に難しい。グリーンの形状とアンジュレーションがタフで、生半可の技術では攻め切れない。接待用らしいという私の先入観はものの見事にくつがえされたわけで、いわば嬉しい期待はずれでしたね

早川 中部さんにも大変気にいって頂いているのも、その点だと思うのですが、ここを設計したマイケル・ポーレットも自信作だし、特に18ホール全体の流れ、リズム感がみごとに表現出来たと言っています。

旧来の日本のコースとは違う

三好 私のように、そんなに飛ばないけれどあまり曲がらないというプレーヤーでも、ショットの落とし所をエブリ・ホール考えさせられる。それがゴルフの妙味の一つなんですね。ドライバーをかっ飛ばして、距離を稼げば有利になるという旧式の日本のコース設計とは違った面白さを実感しました。

早川 ポーレットと私のコースに対する考え方はその点で一致したのです。特定のプレーヤーだけに有利にならないで、最大多数のプレーヤーに公平なコースを目指すべきだというものです。
 それで、ゴルフの発祥地スコットランドのリンクス・コースのコンセプトに、近代コース設計哲学を導入してデザインされたのです。

三好 要するに、一見、手強い様相を呈しているけれど攻め所を考えながらルートを辿っていけば、腕に応じたスコアへの道が開けている。
ところが、腕を頼りに力で捩じ伏せようとするプレーヤーには、とんでもない障害物が待っている。あるいはキック如何で次打の条件が一変する。スコットランドのコースの多くは自然にそうできていますね。そして、プレーヤーにコースは“攻めて来い”と誘惑する。

早川 そうなんです。ここは“挑戦か自重か”―――プレーヤーに決断を迫まるコースです。それでゴルフは自然の中であるがままの状態でプレーするゲームであり、頭を使う知的ゲームなんだとする考え方で、クラブモットーを『TAM ARTE QUAM MARTE』(力と同様に技も)としたわけです。

技量の差があっても楽しめる

三好 私はアメリカのオーガスタもスコットランドのセントアンドリュースもプレーしていますが、オーガスタはゴルフの原点を追って内陸に作られたリンクス・コースの精神を受け継いでいる設計ですね。ここには海はないが、池やクリーク、マウンド、バンカーをうまく使って、リンクスのイメージを出している。
 ところで、中部さんは、今日いくつでした?

中部 74でした。

三好 私は90で、ハンディ18だから、ネットパープレーだった。中部さんはハンディ0だから、私の勝ち!(笑い)
 頭を使うことを要求される設計のコースだと、こういうように、技量に差のある者同士でも、公平に楽しめる。

早川 中部さんのゴルフはいつも感心することばかりで、とても勉強になります。今日はブルー・ティからでしたが、ティショットでアイアンやバッフィで狙い所をちゃんとキープするプレーにはまたもや感心しました。あのアイアンは何番アイアン?

中部 3番が多かったですね。このコースではあまりフルバックから打っていないのですが、ブルーからだと、ドライバーが要らないホールが三分の一はある。俗に言う刻むわけですね。  従来の日本的コースで育ったゴルファーはこの刻むことに慣れていない。と言うよりも刻むホールが多いと欲求不満になってしまう。
 気分的に嫌だと感じながらショットしたり、刻むんだと思いながらも、出来得るならハザードぎりぎりまで飛ばしたいと考えるから、ミスしやすい。

三好 刻むにも勇気がいる。

中部 そうです。ホールが刻むことを要求しているなら、積極的に刻むべきなのです。それには勇気もいるし、これで良いのだという確信も必要なのです。

ポーレットは『頭脳で来い』と

三好 あの『オーガスタナショナル』の13番に似たここの15番で、私は第3打をミスして、クリークに2発も打ち込んでしまった。上がってみれば『11』の大叩き(笑い)

中部 あれは第3打のミスではなく、第2打に原因があるのです。

三好  と言うと?

中部 あの右に曲がるパー5は第2打で、グリーン前に刻む必要がある。もちろん、ツーオンを狙うのは別の話ですが、その刻み方なのです。三好先生は第2打をナイス・ショットして、残り50ヤードぐらいになってしまった。その距離のアプローチ・ショットはプロでさえ嫌がるコントロールの難しいもの。ましてや、グリーン前と右にウォーター・ハザードがある。制約の多い、緊張するショットですから、ミスの確率は非常に高い。つまり、第2打で刻むなら徹底的に刻んだほうが楽なのです。少なくともウェッジのフル・ショットが出来る100ヤード以上の場所をキープすべきでした。コントロールするより、フル・ショットの方がミスが少ないのですから。

三好 うーん、設計家は“頭で来い!”と言っている。いや、実はそれを知らないではないのに、つい飛ばす誘惑に負けたわけで、大いに反省しています。(笑い)次の機会には、ミステリー小説のプロットを考えるくらい頭を使ってプレーしましょう

早川 挑戦する度に、コースが違う表情を見せますから、何度でもやってみて下さい。