[座談会]
中部 銀次郎(元日本アマチャンピオン)
早川 治良(東京グリーン社長)
ゴルファーとして奥義を極めた中部銀次郎氏と、世界に比肩するコースを造りたい一念の早川治良社長の二人は、話がすすむにつれお互いの胸の奥に共通するものを見たようだ。日本アマ6制覇という偉業を成し遂げた名ゴルファー中部銀次郎氏の眼は、はたして富里をどのように捉えたのだろうか…。
早川 今日は憧れの中部さんとプレーをご一緒していただいて、生涯最良の一日でした。長い間、アマ界のトップを維持して来られた人の謦咳に接して、私としても大変に勉強になりましたが、中部さんの眼から見た私ども富里コースの印象をお聞かせ下さい。
中部 これまで3回ほどお邪魔させてもらいましたが、その都度気持ち良くプレーが出来ました。味わいの深いコースであると同時に、整備、維持に力を入れている運営の姿勢がプレーヤーに伝わるからだと思いました。
早川 中部さんも最近、コース設計に手を染めていられるようですが、レイアウトについてはどんな感想ですか?
中部 やはりベントのワングリーンとアメリカ人設計家のコースという点が特徴的だと思うのですが、私のように子供の頃から、戦前に造られた古いコースで育って来た人間には、ちょっと驚かされる面がありますね。
早川 具体的に言いますと?
中部 ピンの位置によって、ちょっと我々日本人では攻め切れないグリーン造型があるように見受けられました。例えば、9番など、二段グリーンになった左奥にピンが立ったら、ベストショットを二度続けても『4』は取りにくい。もうひとつ、16番のパー3。横長のグリーンが斜めになるから、左にピンがあったら、ボールを落とす場所がない。
これらはアメリカ人設計家が自分の国の判断基準で日本に設計しているとしか思えないほど、日本人の体力、感性を超えている発想だと思う。
早川 なるほど、1番アイアンなどで高いボールを打っていくアメリカの一流プロにしか通用しない………。
中部 一般的にコースを造る側が普段は易しく、トーナメントの時だけ難しくという両極の要望を持つから、設計家はまず難しいものをセットする。それをアベレージ以下の人が前のティからプレーすれば易しくなるかというと、ティによる距離の調節だけでは律し切れない面も出てくる。ここがコース設計の最大の課題ではないでしょうか。
早川 設計家のマイケル・ポーレットは、“富里は古来の「クラシック」な戦略デザインの原則に基づいたゴルフコースです。これはメンバーすべてが、そのプレーの能力いかんにかかわらず挑戦したくなるコースです。”と言っていますが。
中部 そうですね。私は若い頃「広野」で技術的にはもちろん、精神面でも切磋琢磨できたことは幸運だったと今でも思っています。富里でもゴルフの奥深さを感じさせる個性的なホールがいくつもありますね。
例えば14番。緩く左に曲がるパー4ですけど、今日はピンが左端でバンカー越えになるので、ティショットは極力フェアウェイ右寄りに打つ必要がある。もし左寄りに打ってしまったら、セカンドはフックに打ちたくなる。つまり、ルートの選択によって求められる技術がまったく変わってくる。こういうレイアウトはプロやシングルにはこたえられない面白さと、征服し得た時の醍醐味があると思うのです。ただ問題はそんな高度のストラテジーがどの程度、多くの人達に理解されるかでしょう。
早川 私達アベレージゴルファーでは一、二度の体験では分からないでしょうね。でも、そうした設計の奥深さが我々ゴルファーを何回もコースに呼び戻すし、挑戦させるのではないでしょうか。その結果、いずれは技術も上達し、コースの要求していることを理解するようになると思うのですが……。
中部 “コースはゴルファー最大の師”と言うのはそのことですが、技量のいかんを問わずより多くの人にゴルフの楽しさを味あわせるという設計家の難問は残りますね。 このコースを造るにあたって、設計家にはどんな意図を伝えたのですか?
早川 ポーレットと話し合ったことは、ゴルフは楽しくなければいけない。生涯スポーツであること。そして、ある程度ゴルフが分かっている人に攻めがいのあるコースということで、ハンディで言えばシングルから18ぐらいまでの人達がプレーすればする程、面白くなるものを要望しました。その結果、この富里は他に見られないクォリティの高さと、繊細、優美なコースになったと自負しております。
中部 ひとつ言わせてもらえば、コース設計家の意図を知るには必ずバック・ティからプレーしてみる必要があります。IP(インターセクション・ポイント)にしても、ハザードの位置にしても、設計はバック・ティを基本にして造られているからです。
気合いを込めた斜面からのショット
早川 各ホールはそれぞれかなりの変化があると思いますが、造形についてはどのように感じましたか?
中部 富里はどのホールもティに立つとフェアウェイの幅につり合ったグリーンの広さがホール全体のバランスを整えていることをまず感じます。角度による変化、まわりの起伏との流れ具合など造形が絶妙ですね。どのようなショットで攻めるべきかいつも考えさせ、また視覚に訴える緊張感が強まりますね。
早川 グリーンについてはどうですか。
中部 私のように高麗グリーンのおそいもので育った人間には面食らうアンジュレーションと速さですが、最近のベント・ワングリーンの増えた傾向は勤勉な日本人が世界に目を開いて勉強を続けた成果だと思いますね。
早川 現代人ゴルファーのニーズが多様化していて、そのうちのひとつにマスターズを開催するオーガスタなみのグリーンがある。あれがベストの形かどうか別問題として、グリーンはクォリティの高いベントでアンジュレーションが豊かであればアプローチをふくめ、多様な秘術が必要となると思いますが。
中部 ゴルフの奥深い面白さの一つがそこにありますね。ただ、昨年、初めてテレビのゲスト解説者としてオーガスタを見たのですが、今現在の形がボビー・ジョーンズの当初の意図通りかどうか疑問に思いました。
早川 グリーンは事実観ていてもスリリングですし、選手の緊張
中部 その意味ではある程度、富里の場合はリーズナブルかも知れない。グリーンは正しいショットのボールは止め、パットの転がりは速くてスムーズというのが理想ですが、総体的に富里はこれまでの日本人があまり経験したことのない速さでしょうね。
早川 オープン当初は3パットが多くて、メンバーの大半は手を焼いたようですが、最近では速くてシビレルのが面白いという人が増えました。
中部 慣れの問題でしょうね。こういうグリーンで育ったゴルファーが外国へ試合に行けば、グリーンに泣かされることは少なくなるかも知れない。
早川 長い間、選手としてプレーなさった中部さんにとって、コースを制するとはどういう意味ですか。
中部 プレーヤーとしての満足感です。ただし、それはスコアではないんです。スコアにはショットの内容が必ずしも表示されない。
同じ『4』でも2+2、3+1、4+0といろいろある。だから、自分で思わぬ失敗をしないで出した73と、失敗したけど71という場合、どっちに満足感があるかというと、73の方なのです。もちろんゴルフはミスのゲームですから、ミスがあっても当然なので、そのミスを最小限に抑える必要がある。それを、20ヤードのアプローチが直接入ってしまった偶然まで自分の実力と勘違いしていると数字崇拝主義になってしまい、上達しません。
だから、予測出来ないミスがあって70というスコアがかりに出ても、それはコースを制したとは言えないのです。
早川 なるほど、我々とはレベルの違う話ですが、よく分かります。中部さんのゴルフを見ていますと、いつも静かに淡々としてプレーなさっている印象です。あまり闘争心を感じませんが……。
中部 そうですね。ゴルフは起こったことに鋭敏に反応せず、やわらかく遣り過ごすゲームだと常に自戒していますから。
早川 私は最初に申し上げましたが、昔から中部さんをアマチュアゴルファーの鏡として畏敬してきました。これからも後進の指導のために尽くされると思いますが、富里へもときどきお越しください。
今日は貴重なご意見、有り難うございました。
No.14 PAR4
(1990年4月 TAM ARTE QUAM MARTE(富里)3より抜粋)
※ 社名、役職等は会報誌発行当時のものとなります。
※ 一部の画像は、出版物から利用しているため、見づらい場合があります。予めご了承ください。