西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)
【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。
カレドニアンGC、富里GCのグリーンが世界四大メジャー・トーナメントの一つ、マスターズを開催するオーガスタ・ナショナルGC並みに高速なグリーンにしようという試みは一昨年秋から始まり、約二年になろうとしている。ゴルフ・マスコミの新聞・雑誌関係者が実際に体験して大々的に報告したこともあって、大きな話題の渦を広げている。
2014年秋(11月)のゴルフ団体、マスコミ関係者の視察会ではクラブ側の努力もあって実際に14フィートの速さを実現した。中にはそんな早いグリーンをアマチュアがプレーすると、3パット以上を要求して、プレーが遅延するのでは?またはゴルフが難しいスポーツになってしまう心配がある?などの声もあった。
しかし、それは杞憂だった。
メンバー諸氏もビジターも「ここへ来れば高速グリーンを堪能できる」とプレーの遅れもなしに、マイケル・ポーレットの考えた戦略性をさらに高度な環境で味わっているのが現状である。
いつも、プレーしている人ならお分かりのように、早川社長と石井浩貴キーパーを先頭に管理部門のスタッフがきめ細かい作業に怠りなく従事しているから "オーガスタ並みの速いグリーン" が可能になっている。
その一端は15番グリーンと16番ティを結ぶ歩経路の脇に、実験用のナーセリーがあって、常に研究をしている事でも知れるだろう。
このナーセリーには1・シャーク、2・タイイ、3・オーソリティ、4・マッケンジー、5・007という第四世代のベント芝種が並んで敷き詰めてあり、季節による気温変化、昼夜の寒暖差、雨による透水度雪霜の影響などを調べることが出来る。
その結果、今現在のコースグリーンにはタイイ(Tyee)という芝をインターシードとして使用している。
この芝種は葉が細かく、垂直に立ち、色は淡いが密度のある芝種で、皆さんが今体感しているもの。もちろん他の芝種が研究の末に良い結果がでれば、将来的に変わる可能性もあるのだろう。
では "良いグリーン" とはどんなものだろうか。
もちろん速いグリーンが "良いグリーン" の条件の一つには違いないが、問題は18ホールのグリーンすべてが一定の均一性を持つことが大切だ。
歴史書をひも解くと、英国の偉大なアマチュアで評論家のホーレス・ハッチンソン(1886・87の全英アマ・チャンピオン)が1890年に「セント・アンドリュースGCの5番ホールのグリーンは世界中で最も素晴らしいグリーンだ。面白い起伏があるからではなく、芝生が均一でムラがないからだ。」と書いた。
芝生が均一でムラがない・・・。これが18ホールのすべてに言え、冬でもプレーするセント・アンドリュースGCを愛するゴルファーに年間を通じて保持できればまさに "良いグリーン" なのだ。
複雑な起伏の中に造られた18個のグリーンはコンター(起伏)、日照、風向き、保水性、踏圧などで条件は複雑に違う。
それを一定のムラのない芝生に管理することは容易ではない。 しかし、各クラブのグリーン・キーパーはその命題に昼夜を問わずに取り組んでいる。
カレドニアンGCでは、より高度な環境を求め日夜研究が続けられている。
米国の場合はどうか?
国土の広い米国では南部の州には寒地型のベント芝によるグリーンではなく、芝目の強いバミューダ系の芝生だ。
ベン・クレンショーがこんな事を言っていたのを思い出す。
テキサス州オースチン生まれ、テキサス大で修行した彼が全国規模のアマ大会に出場するため東部の名門コースを訪れた時、生まれた初めてベント芝のグリーンを体験して
「こんなスムーズで速いグリーンは初めてだ!」
と大感激したと言うのだ。
ボールの転がりがスムーズで速い・・・ベント系の芝生で造る良いグリーンにはこの "転がりの良さ" が大切なのだろう。
だから、ベント系の芝生の研究は急速に進み、米国のフロリダ州でも使用される新世代型ベント芝さえある。USGA(全米ゴルフ協会)の中にあるグリーン・セクションの研究成果もあって、今やニュー・ベントと呼ばれる芝種は "第四世代" までに進化した。
つまり "均一でムラのない" グリーンから "転がりがスムーズで速い" という特性を求めて、進化を遂げている訳であろう。
話をカレドニアンGCの石井キーパーに戻すと、Tyeeのインターシードで出来ているグリーンの保持管理を研究している作業について訊いてみた。
― 今現在の研究テーマはどんなことですか?
石井 芝はグリーンの下部にある砂質の床で、健全に育つ必要があります。そこで18ホールのグリーン床を調べて、均一の根が育っているかを調べています。高速グリーンを恒久的に維持管理するためです。
― 具体的にはどんな作業ですか?
石井 各グリーンの表面から20cmの砂床を抜出し、芝草の細根が健全に育っているか、枯死した根が絡まって密集した層の透水性を調べていく必要があるからです。
18個のグリーンではその部分が微妙に違い、表面の芝の育成に影響するのです。
― 8個のグリーンに "ムラのない、スムーズな転がりで速さの出る" グリーン面を保つには芝下砂層の内情を知る必要がある?
石井 その通りです、グリーンはそれぞれ場所や形によって、性質が異なるので、良質な砂床を造る必要があり、根の張り方、芝根の絡まった層の透水度を計測します。
そのデータをもとにグリーン面のコアリング(穴開け作業)の方法を検討したり、目土の方式を変えたりするのです。
という具合で "速くて転がりの良い" グリーンを管理するために石井キーパー以下の管理スタッフは緻密な作業を続けている訳だ。石井キーパーはグリーンの芝の研究をレポートにまとめ、早川社長に提出した。
それを読んだ早川社長は
「綿密な研究であり感心した、そして今まで近県の名門クラブのキーパーが見学に来たり、情報を交換したりしている。これは別な意味で有意義なことだと思っている、石井キーパーはすっかり芝博士になっていますよ。」
ともあれ、カレドニアンGCのグリーンは全て均一なムラない性質を備え、速くて転がりのスムーズな表面を保っている。
こうなれば、我々一般ゴルファーはパットのミスをグリーンの所為には出来ない。例え1メートルのパットでも外せば腕が悪いのだと納得せざるを得ないはず。
パットの技術でもパターのスイートスポットでボールの芯を打ち抜くことを心掛けなければ狙い通りにボールは転がってくれない、と肝に銘じなければならないのだろう。
(2015年 TAM ARTE QUAM MARTE誌 56より抜粋)
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