20年の歳月で成熟したコースを見直す 西澤 忠

西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)

【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。

当り前なことだが、ゴルフ・コースは自然素材を使って造られるために年月の経過で変貌する。野球場やテニスコートとは違うのだから当然のことだろう。自然を相手にしたプレーの舞台である故に、歳月とともに成熟したり、老朽化することは避けようもない。

その一例にバンカーを挙げれば、その姿も形も変わる。数多くのプレーヤーが打ち上げた砂がグリーン上に乗り、そこへ目土も加わって年間に1~2㌢もかさ上げされるという。
反対にバンカーの砂面は下がるから、見た目にもその変化が如実になる。つまり、バンカーは歳月を経るとともに深くなって変貌を遂げるのだ。

日本の名門コース、廣野GCのバンカーも、開場当時の写真では"アリソン・バンカー"と恐れられるほどの深さはなかった。しかし、永い歳月でバンカー・エッジ(アゴ)はオーバーハングするし、砂面はより深くなり、恐怖のハザードに姿を変えたのだ。

カレドニアン・ゴルフクラブは今年で20周年を迎えるにあたり、ここ数年に一部のホールで部分的改修工事を行ったことは、会員諸氏ならすでにご存知のことと思う。改修の結果については各自の会員で意見があるだろうが、ここではその目的と意味を説明して、今後のプレーに役立てて貰いたいと思う。

改造には大きく別けて二通りの方法がある。ひとつはリデザイン(redesign)、もうひとつはリコンストラクション(reconstruction)。リデザインとはオリジナルな設計意図に関係なく、ホールのレイアウトを変更すること。
つまり再設計。リコンストラクションとはオリジナルの設計意図とコンディションに戻すことである。日本語でいえば、「改造」というより「改修」で、J・M・ポーレットと早川治良社長が協議しながら目指したのはリコンストラクションであったことをまず知って欲しい。

代表的な改修は、3番ホール(190yards par3)の右手前のバンカー。左右に2段グリーンとなるので、右に立つピンは難しくなる。バンカー越しに奥行きのないグリーンにボールを止める高級な技を要求するから。しかし、そのバンカー・エッジが盛り上がり、ピンの根元が見えにくくなったので、改修した。
ここではさらに、グリーン左奥のマウンドを削り、アプローチ・エリアを造った。赤いピンが奥に立つ場合、果敢に攻めたプレーヤーにご褒美として寄せやすい場所にするためである。

次にバンカーを埋めて、新しい戦略性を生み出した例に12番ホール(220yards par3)がある。グリーン正面に大きなバンカーがあり、その縁にあるマウンドがグリーン上の起伏となって、中央に山脈を形造っていた。
そのため、グリーン左半分エリアには傾斜が急すぎてピンを立てられなかった。今シーズン前に練習に訪れた池田勇太プロによれば、上級者にバンカーは関係ないが、アベレージ・ゴルファーには過酷だという意見だった。

ポーレットも「アリソン風に深くなり過ぎた」という意見で、早川社長との協議により、バンカーを埋める代わりにグリーン左のラフ・エリアにサンド・バンカーを新設したのだ。
これでピンが左半分にあってバンカーへ入れても、上り傾斜のグリーンに寄せやすくなったもの。

もう一つの改造は6番ホール(560yards par5)のフェアウェイ・バンカー。グリーン手前90ヤード付近のクロス・バンカー(第2打で越すか、手前に刻むかを問う)として、二つのポット・バンカーがあったが、右側を埋め、左の小さなポット風を大きめに改修した。

これは、道具の進化による飛距離アップの時代、2オン狙いの誘惑を増し、アベレージには攻略ルートの幅を広げる目的だ。その代わり、グリーン右のバンカー・サイズを2倍に拡大、グリーンを外れたボールに課罰する仕組みである。

これらの改修デザインによって、会員諸氏には新しい攻略意欲が増したものと推察する。20年の歳月で変化したコースを再度、見直すことによって挑戦意欲をもう一度掻き立てるからである。
「ハザードとは難しくあるべきだが、そこからのプレーが不可能であってはならない」(ハリー・コルト)というアリソンの師匠の言葉が思い出される。

『TAM ARTE QUAM MARTE』51号より抜粋