グレードを上げて進歩する、カレドニアンの改造 西澤 忠

西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)

【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。

東京グリーンの「富里ゴルフ倶楽部」「カレドニアン・ゴルフクラブ」が“スコットランド・リンクス志向の戦略型コース”を旗印にスタートして、すでに17年余りが過ぎようとしている。
J・マイケル・ポーレットの設計哲学の特徴、“対角線デザイン”(diagonal design)の戦略性と、渚バンカーやマウンドに代表されるアメリカン・スタイルの造形の美学もメンバー、ビジターを問わずに広く日本中のゴルファーに受け入れられたようだ。
世界水準の設計コースがようやく日本に根を下ろしたというわけだろう。

しかし、“コースは生きた芸術品”といわれる。それも自然を素材とするだけに、年々歳々人間の手による保護管理・維持のための作業がその背景にあることを忘れるわけにはいかない。毎日のコース・メンテナンスはもちろんのこと、プレーヤーを受け入れながらの部分的手直し、改善が常に必要なのである。完成時の姿のまま歴史を重ねた名コースは世界広しといえひとつとして存在しないのだ。

たとえば、世界4大メジャーの第1戦、マスターズ・トーナメントを毎年春に開催する「オーガスタナショナル」は80年余の年輪を刻んだが、コースの改造は大掛かりなものから部分的なものまで入れると200箇所近くに及んでいる。

50年代、11、15~16番のグリーン周りにウォーター・ハザードを大胆に導入したR・T・ジョーンズSr.の改造設計に始まり、ここ数年の“セカンド・カット”と呼ばれるラフの出現や距離の延長(トム・ファジオ設計による)など、すべては「時代に対応するための必然的手段」と歴代マスターズ委員長はコメントした。

もちろん、パーマー、プレーヤー、ニクラス、そしてタイガー・ウッズなど時代を代表するプレーヤーのスキル(技術)向上がコースの戦略性を超える領域に行ってしまうことを阻止する意味合いもあったが。
その意味から言えば「カレドニアン」の場合も、数多くの女子プロやシニアプロ・トーナメントを開催し、2000年にはメジャーのひとつ、日本プロ選手権を成功させたが、部分的改造は100箇所近くに及んでいる。

トップ・クラスのスキルに対応する改造はもちろんのこと、一般プレーヤーのスムーズなプレー進行を促進する改造まで、常時にコースの隅々まで監視の目を光らせた結果だった。ポーレット設計のオリジナルな味わいと戦略性を保ったままの改造であることはもちろんだが、先頃、その大まかな部分改造がずべて終了したという。

「各ホールの持つ戦略性をそのままに、ポーレット設計の哲学をグレード・アップするのが目的です」と早川治良会長が言うように、アベレージ・ゴルファーには“プレイアブルに”(プレーし易い)、そしてトップ・レベルのアマチュアやプロには“よりストラテジックに”(戦略的に)修正・改造するのが目的だった。

それは、開場して2年目の'93年に始まり、2000年のフェアウェイ芝をベント芝から高麗芝に張り替えるという大工事を敢行したものまで、随所に及んだ。そのすべてをここに記述するわけにいかないが、早川会長の飽くなき改造の目的と意義についてポイントを絞って紹介してみよう。それも「カレドニアン」のパー5ホールだけに絞って考察してみよう。

コース改造に関しては考え方に3つの方法がある。
  1.リ・コンストラクション(re-construction)再建・復興
  2.リ・ビルド(re-build) 改築・改造
  3.リストアまたはリノベート(restor or renovate)修復・刷新

という3つ。1と2はオリジナル設計の根本的思想を変える改造で、そのコース設計家が自ら行うか、または物故していない場合に新たな設計家に委嘱するケースになるはずだ。

したがって、「カレドニアン」の改造は小さな部分改造でも「ポーレットに現場の意見を送り、彼からはファックスによって図面を受け取る」(早川会長)方法で実施された。
完成度の高いコースでも、開場してプレーヤーを受け入れて行くうちに進行上の問題、戦略性の見直しなどで、修正を余儀なくされる部分が出てくるもの。
それが3の修正・刷新であり、“時代に対応した改造”なのである。

2番ホール 攻略ルートをふやしてオルターネート・デザインを鮮明にする

2番ホールは左側が池、右がOBラインの迫るフェアウェイの蛇行するパー5だが、第1IP(インターセクション・ポイント=1打の落下点)の先で下り傾斜になり、その部分でフェアウェイが一旦途切れる。
つまり、ラフ・エリアが横切るレイアウトだった(この方式もポーレット設計の特徴のひとつで、“ターゲット・ゴルフ”を要求する方式)。
しかも、砲台グリーンが縦に長く、3~4段の段差をもつアンジュレーションがあった。

'92年~'93年2月・・・まず、左池のフチに80メートルに及ぶロング・バンカーを施設。右側OBを嫌って大きく逃げるアマチュアが段差によって転がるボールが池に落ちるのを防ぐ方策だった。
 '93年10月・・・第2IPフェアウェイ右のマウンドを削って拡幅。
'98年・・・2000年日本プロ選手権に向けて、さらにフェアウェイ右を拡幅。マウンドを新設。第1IP先のフェアウェイを横切るラフをフェアウェイに。グリーン右手前にバンカーを新設、グリーンを2段に縮小。グリーン左のくぼ地をアプローチ・エリアに改造。これで、プロが長打すれば2オン可能なホールにした。アマチュアにとっても、スタートした直後の2番ホールでターゲットを絞られたプレッシャーからスコアを崩したくないものだが、オリジナルの設計コンセプトを保持しながら、長打者の有利性と3オンを狙うアマチュアの攻略ルートが増える改造に成功した。

攻撃ルートと迂回ルートが完備されてこそ、“オルタネート(二者択一)・デザイン”がより鮮明になったという好例だろう。

第2打の狙いどころが右にぐっと広がった、2番のフェアウェイ

15番ホール 近代設計を駆使して戦略性を増す

「カレドニアン」を代表するシグネチャー・ホールは「オーガスタナショナル」13番ホールを髣髴させる名ホール。「オーガスタ」は左にドッグレッグするフェアウェイ左にクリークが絡むが、「カレドニアン」はほぼストレートながら、第2IP付近からはクリークと池がグリーン手前と右に寄り添って同じパターンになる。
両者とも、松や杉に背後を囲まれ、仄かに暗い森の中のグリーンにショットする快感を演出する。
しかし、森に包まれたグリーンの管理は至難で、風通しと日照の不足から、森林伐採を余儀なくされた。この作業は開場以来の通年作業で、苦労の種だったことが想像される。

ポーレットのオリジナル・レイアウトではこのホールはバンカーを置かない方式だった。バンカーの役割にはターゲットを浮き彫りにすると同時に、距離感を掴みやすくする効果があるものだが、“ノー・バンカー”にはショットの狙いが絞りにくい難しさがあった。開場当時、“アメリカン・タイプ”に慣れないプレーヤーは距離感と方向性に戸惑ったはず。
ゆるく右に曲がるフェアウェイに落としどころの焦点が絞りにくいためで、左側のくぼ地や右斜面にショットを曲げる人が多かったことだろう。

そこで、'92年~'93年・・・第1IP左に2個のフェアウェイ・バンカーと3個のガードバンカーを新設。
'04年・・・さらに右手前にバンカーを新設した。
こうした狙い所を絞らせるために置くバンカーを“ターゲット・バンカー”と呼ぶが、まさに狙い所を明確にする効果を生んだはず。さらに、プロやトップ・アマには2オンを狙うチャンスも生まれ、“危険と報酬(Risk & Reward)設計が際立ったことは言うまでもない。

A・マッケンジー博士と球聖B・ジョーンズの設計した13番ホールは距離的に2オン可能なホールで、“パー4.5”設計の原形といわれる。危険を冒して挑戦すればスコア上の報酬を得られるところから、“英雄型デザイン”とも呼ばれ、近代設計術のひとつのパターンとなった。
ポーレット設計がここで狙った戦略性もその具現化で、ウォーター・ハザードの危険と審美性が同居するホールになったのだ。

15番はターゲットバンカーが置かれて "危険と報酬" が際立った

18番ホール フェアウェイもグリーンもダイヤゴナル・デザインの名ホール

“渚バンカー”で有名な18番ホールはポーレット・デザインの極致を表現している名ホール。'92年のPGAフィランスロピー・トーナメントや'00年日本プロ選手権のフィナーレでドラマを演出したことはまだ記憶に新しい。
ここの手直しも早くから始まった。

'95年・・・第1IP付近の渚バンカー左奥のエッジはマウンド状に盛り上げて造成されていたが、池を避けて安全ルートで左にティショットした際、次打方向が見通せなかったので、マウンドを削って低くした。
'05年~'06年・・・第2IP左側のくぼ地を盛り上げ、一段低いラフ・エリアを造成。フェアウェイを外しただけではOBにボールが行かない工夫をした。

このホールに限らないが、俗にポーレットのホール・レイアウトを評して“ドッグ・レッグ・ホールが多い設計”という人が多いが、実は違う。この18番でも池を大胆に越すルートが正規ルートで、左に用意したフェアウェイは迂回ルート。池を越せないプレーヤーに回り道を用意したに過ぎない。

したがって、ティから見て、フェアウェイが斜めに設定されたホール、ドッグ・レッグではないのだ。この斜めにターゲットを設定するデザインを“レダン・タイプ”デザインと呼び、ターゲットに対して対角線上にルート選択するので、“ダイヤゴナル・デザイン”ともいう。
斜めに置かれたグリーンをマウンド越しにブラインド・ショットする「ノースベリックGC」(スコットランド)15番ホールのニック・ネームが名称の由来だ。

だから、このホールはセカンドで2オンを狙う場合も“レダン・タイプ”設定で、グリーンが斜めよりもキツイ直角に置かれる。奥行きのないターゲットに長いクラブでスピンを効かせたショットを打たない限り2オンは不可能なのである。3オンを狙う迂回ルートは第2打をなるべく左に運び、横長のグリーンを縦に使える場所を確保する必要がある。
そこで、フェアウェイ左を拡幅した意味合いが明確に見えて来るはずだ。

池を越すか迂回するか。18番は第1打も第2打も対角線のルート選択

以上の3ホールだけでも、15年の長きに渡って改造を繰り返した。それ以外にも部分改造は随所に及び、今日に至っているが、デザイン上の改造以外にもフェアウェイ芝の張替え作業が行われたことは記憶に新しい。

ベント芝のフェアウェイは冬場にラインが際立つ景観上の見事さがあったが、温暖化で最高の品質を通年に保つことが難しいので、2000年に一気に高麗芝に張り替えた。約10万㎡の面積を400人の作業員でわずか1ヵ月で仕上げる突貫工事だった。

「これで一応の改造は終わりましたが、コースは生きているものですから、さらに手を加える必要があれば、いつでも着手します。ポーレット設計のグレードを上げる改造ならば労力を厭いません」と早川会長が胸を張った。

(寄稿 西澤 忠氏)

『TAM ARTE QUAM MARTE』51号より抜粋