西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)
【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。
前にも書いたように、昨秋から冬季の間に続けられたコースの部分改造が予定より早く終了したという。早川治良社長のコースに対する熱意に敬意を払いたいという思いは大方のメンバーの一致するところだろう。
コース改造というテーマは、昔から大いなる難事業で、「ゴルフ・コースも人間と同じで、歳をとる」という観点から、誰しも避けて通れない問題である。それは、コース造成が完成した時点で完璧なものは世界にひとつとしてなく、歳月が成熟を促し、真の完成に導くものだからだ。
人間の成育と同じで、幼少期から知識・教養を身につけながら青年・壮年期に達する成熟の過程と似ている。
そこで、自然の産物であるコースを人智を尽くして成熟させるために改造工事が必要になるのだが、コース設計家はどう考えているのだろうか?
№1 と №10 のスタートが背中合わせ、ハウス前に並ぶ№9 と №18アウトが左回り、
インが右回りのフェアなホール配置は、ポーレットが秀逸であることの証明だ
アメリカの設計家で、コース設計の歴史をも研究するジオフリー・コーニッシュ(Geoffrey S. Cornish)によると、考え方に3つの方法があるという。
その3つとは、
1.リ・コンストラクション(re-construction) 再建・復興
2.リ・ビルド(re-build) 改築・改造
3.リストアまたはリノベート(restor or renovate) 修復・刷新
ということだ。
そして、彼の主張は3の修復・刷新こそ“時代に対応した改造”であるとする。
なぜなら、往々にして1・2はオリジナル・デザインに少しの尊敬も払わずに勝手に造り替えてしまうケースが多く、改造設計家やコース・オーナーのエゴイズムがそうさせるからだという。
創設時の設計家が改造に携わるならばオリジナル・デザインが保持されるはずだが、すでに物故している場合が多い改造時期には新規に設計家を起用することになる。
その場合にはオリジナル・デザインに尊敬の念を込め、その意図と哲学を改造設計にも反映することが求められるというわけである。
その点、M・ポーレット設計の哲学をよく理解する早川会長の「要所ではポーレットに意見を求め、詳細はこちらでやりました」との言葉がリノベーションであることを表している。
1番はティー前とアプローチが右に大きく拡幅されて、ルート選択が容易になった
この度の部分的改造工事は「カレドニアン」だけでも10箇所近くに及んだが、前に報告した17番ホールのティに続いてここではスタート1番ホールと4番ホールのフェアウェイ拡幅について触れてみたい。
M・ポーレットのレイアウトで秀逸なのはルーティング(ホールの配置)で、これは2000年に新設されたアメリカの「ザ・プリザーブGC」(The Preserve GC, Carmel, CA)が“偉大なコース100”ランキングで83位に入ったことでも証明されている。
彼のルーティング原案を使ってトム・ファジオが設計したペブルビーチに近いニュー・コースが最新のランキングでベスト100に入ったのだ。
ポーレットのルーティングに対する力量は「カレドニアン」でも発揮されており、背中合わせにスタートする1、10番ホール、ハウス前に並ぶ9、18番ホール、アウト9ホールが左回り、インが右回りとフェアな配置となっていることからも想像がつく。
ただし、1番ホールのグリーン入り口が右になるので、ティショットをなるべくフェアウェイ右に打ちたいのだが、そのランディングエリアが視覚に入りにくかった。左OBとフェアウェイ・バンカーが脅威で、大きく右に打つと窪地になるラフへ落ちるからだ。
そこで、ティ前の谷を埋め、フェアウェイ右の窪地を盛って拡幅した。これで、斜めに置かれたフェアウェイを“オルターネイト”(二者択一)するルート選択が容易になった。
スタート・ホールでスコアを崩すと、一日のプレーが不愉快になるものだが、これで気分良くスムーズなスタートが出来ることだろう。
もうひとつの4番、距離の短いパー4ホールはいわゆる“ドライブ&ピッチ”といわれる。距離的に第2打がショート・アイアンになるので、設計家は視覚的に脅威となるハザードを配置する。そのハザードを避けるためにはドライバーを捨てて、アイアンなどでティショットするレイアップ(刻み)を奨励する。
ただし、ポーレットのオリジナル設計ではハザードが厳しすぎた。第2打のグリーン右側も林と窪地が近すぎた。
そこで、フェアウェイ右側を拡幅し、ボール止めのハザードを配置したのである。これで、“ショート・パー4”の毒気を残しながら、プレー進行の促進につながるだろう。
「今回の部分改造でマイナス点はすべて解消された。メンバーの皆さんにはより以上の“力と同様に技も”(TAM ARTE QUAM MARTE)のモットーに邁進していただけるはずです」という早川会長の声が明るかった。
(2006年9月 TAM ARTE QUAM MARTE 44より抜粋)
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