金田武明さんのコース設計理論から見た「カレドニアン」攻略術 西澤 忠

西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)

【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。

金田武明さんが亡くなって、この10月で1周忌を迎える。「カレドニアン」でプレーする度に、コース設計の分野で教わったことを思い出す。

金田さんの設計コースは全部で7コースと少ない。ひとつの現場に足繁く通い、造成をゼネコン任せにしなかったこともあるが、処女作「メイプルCC」(岩手県岩手郡滝沢村)を手掛けたのが56歳の時で晩年に近かったからだ。

その後、第2作目に携わった「クラブ・シェイクスピア・サッポロGC」(北海道石狩市)が面白かった。全18ホールにシェイクスピア戯曲のタイトルを冠し、そのイメージでホール・レイアウトをするというユニークなデザイン作業になったからだ。
1番と10番のグリーンが1グリーンになるので、“ロミオとジュリエット”、6番に2グリーンを用意して“お気に召すまま”と選択させるなどは分かりやすい口で、“目には目を”や“冬物語”となると頭を悩ましていたものだ。

金田さんが自慢し、私も気にいっていたのは11番の“真夏の夜の夢”で、グリーンの背後に流れ落ちる滝がグリーンの下を通って正面に溢れ出るウォーター・ホールだった。自然素材と向き合い、そこへ配置するデザインと知的に戯れる設計スタイルがいかにも悪戯好きの金田さんらしく、微笑ましかった。

米国の設計家、J・M・ポーレットに「富里」「カレドニアン」のデザインを依頼する段階で、早川治良社長(当時)との仲介の労をとった折の金田さんもユニークな働きをしたと思う。
当時、ベンツ&ポーレットの名でペアを組んでいた二人を「相模CC」へ誘い、ゴルフをプレーしたのだが、ご相伴にあずかったのが私だった。桜の花が誇らしく満開の季節で、西海岸アイオワ州生まれの二人が日本の春を満喫した。
グリーン上にピンクのカーペットを敷いたような花びらの乱舞に、全員が笑いながらプレーしたものだ。

プレー後、金田さんは日本のゴルフ草創期の名手で、「相模」を設計した赤星六郎のゴルフと設計について語り、「コース設計の原典はスコットランド・リンクスにあるが、その魂を日本の風土にマッチさせるような設計がベストだ」と諄々と説くのだった。

バイト・オフ設定の代表的なカレドニアン18番(右)や13番(左)戦略性の基本である

例えば、ポーレットのいう「私の設計するホールにドッグ・レッグはない。ティに対してフェアウェイが斜めに置かれているもので、これを“対角線設計”(diagonal design)と呼んでいる」との持論は英国人設計家、H・S・コルトの理論からの引用である。
アリソンとの共著「Some Essay on Golf Course Architecture」(1920年刊)はリンクスの名ホールを分析した設計論で、「ハザードはプレー・ラインと斜めに接するように置くのがセオリー」と主張しているのだ。

「この理論が米国では“ハザードを大きなキャリー・ボールで飛び越すほど次打が有利になる”という英雄型デザインとなった。カレドニアンの18番ホールはその典型で、池と渚バンカーを大胆に越せば、2オンの可能性が生まれる」と金田さんが解説してくれたものだ。

「ジャックなど設計の専門家はそれを“バイト・オフ(bite off)”という。危険な区域をショットで跳び越す、噛み切るという意味だと思う」とさらに説明してくれた。
「カレドニアン」では18番に限らず、13番の池越えホール、「富里」では13番、谷越えのティショットなど“バイト・オフ”設定のホールがある。セカンドでグリーンを狙う設定でも、ハザードを超す場合に応用される。

つまり、ターゲット(グリーンやフェアウェイ)が斜めに置かれる設定こそ、リンクスにある戦略性の基本で、ゴルフの醍醐味はそこに尽きると金田さんは力説するのだった。
メンバー諸氏の皆さんも、この設計上の理屈を知ってプレーすれば、スコアがまとまるはずでは?

(2007年9月 TAM ARTE QUAM MARTE 46より抜粋)

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