ポーレット設計のリンクス思想とは? 西澤 忠

西澤 忠
(ゴルフ・ジャーナリスト)

【プロフィール】
1941年生まれ、1965年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。同年、ゴルフダイジェスト社入社。
同社発行の月刊「ゴルフダイジェスト」誌編集長を経て、1996年1月にゴルフジャーナリストとして独立。

J・M・ポーレットの設計思想については、会員の皆さんはすでにご承知のことと思う。早川社長、摂津茂和先生、金田武明氏などのエッセイに「ポーレット設計は古いスコットランド・リンクスに触発され、リンクス思想に裏付けられた戦略型のレイアウトである」という具合に。

そこで、ここではもう少し具体的に、ポーレット設計の原点、発想がリンクス・コースのどこに由来するものか、英・米の名コースのどこに触発されたのかを考察してみたい。
「コース設計の源流はすべて古いリンクスにある」というのはコース設計史の教えてくれているところだからである。

一例として挙げれば、マスターズ・トーナメントで有名なオーガスタナショナルGCをマッケンジー博士と球聖ボビー・ジョーンズが共同で設計するに当って、二人の意見一致を見たのは「リンクスの名ホールをここに再現する」であった。<特に「セントアンドリュース・オールド」は少なくとも5ホールに影響したといわれている。再現といっても模倣ではなく、名ホールの戦略性を現代風に再生したのである。

では、世界の設計家に思想的な動機付けを与えた名ホールの原型とはどんなものか? 
以下に挙げるのはその一例である。

.『アルプス』プレストウイックGC 17番ホール。
グリーン正面に高いマウンドがあり、ブラインド設計の基本パターン。

.『ケープ(岬)』ミッドオーシャンC(バミューダ)5番ホール。
米国のC・B・マクドナルドの設計で、高いティから海越しに斜めのフェアウェイを狙うパターン。

3.『レダン』ノースべリックGC 15番ホール。
設計者不詳の名コースのパー3で、縦長のグリーンが右手前から左奥に斜めに伸び、傾斜は奥に下りとなる。左は深いバンカー、右奥はマウンドとバンカー。フックボールを要求するパターンで、反対に、右奥に斜めになるものを“逆レダン”という。世界の設計に最も影響を与えたパターン。

.『アイランド・グリーン(浮島グリーン)』TPCソウグラス 17番ホール
P・ダイ設計で有名な池に浮かぶグリーンのパターンだが、米国に古くからある設計パターン。

実はもっと多くのパターンの原型があるが、ここでは重要な2.岬と3.レダンを富里GC、カレドニアンGCのホール・デザインで説明しよう。

カレドニアン・ゴルフクラブ 18番ホール

まず、カレドニアンの13番、18番ティショットを思い起こして欲しい。大きな池を越して打つか、安全に左フェアウェイから迂回するか?のアルタネート(二者択一)を迫られる状況。

富里の13番ホールも左右が逆になり、池が谷になるだけで方式は同じ設定だ。この危険なエリア(池や谷)をビッグ・キャリーボールで越す設計パターンは比較的近代のもので、米国で20世紀初期に流行した。越せば次打が短く有利になるが、危険もはらむところから、“リスク&リオード(危険と報酬)”という設計専門用語も生まれた。

この“英雄型デザイン”をポーレット設計では随所に見ることになる。専門家が“バイト・オフ”(bite-off)というパターンで、日本にはなかった戦略性だが、廣野GCを設計したアリソンが導入し、今では多くの米国人設計家が流行させた。
次に“レダン”はカレドニアンの17番に現代風にアレンジしている。右手前から左奥にかけて長いグリーンが斜めに置かれ、傾斜が奥に下がる。ただし、ポーレットは途中にリッジ(尾根)を横切らせて、自分なりの造形を試みた点がモダンだ。

また、このパターンはパー3ホールだけではなく、フェアウェイからグリーンを狙う、またはパー5の第2打にも応用される。カレドニアンの16番の第2打での狙い方はまさに“逆レダン”であろう。
 もう一つの“アルプス”はマウンドで目標を隠す、ブラインド・ショットを要求するパターンだが、ポーレットはカレドニアンの14番ホールで活用した。打ち下ろしの短い第2打なので、グリーンの右半分をマウンドで隠した“ハーフ・ブラインド”ともいうべきもの。ピンが右に立てば難度が上がり、左なら通常になる心憎い演出である。

また、ポーレットが最も如実に過去の名作を再生させたのがカレドニアンの15番と富里の7番ホールだろう。マッケンジー&ジョーンズのオーガスタ13番とやはりマッケンジーの名作、サイプレスポイントの16番を再現させたからである。

1910~20年代、米国の名設計家は英国のリンクスに学んで名コースを生み出した。“設計の黄金時代”といわれるこの時期の設計家と同じように、ポーレットも英国回帰の思想で、よりモダンな様式のコースを誕生させたのである。

古きを訪ね新しきを知る「温故知新」の精神が球技として醍醐味のあるいいコースを生む背景にあることを知って欲しい。

2012年10月 TAM ARTE QUAM MARTE 53より抜粋

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