類似したホールが一つもない面白さ 杉山 通敬

杉山 通敬

【プロフィール】
1935年 東京生まれ。国学院大文学部卒。
「ゴルフダイジェスト」編集長を経て1977年3月にゴルフ・ジャーナリストに。ゴルフ雑誌を中心に寄稿、活躍している。
著書に『帝王のゴルフ』『プレイ・ザ・ゴルフ』『日本の人物ゴルフ史』『ゴルフがうまくなる本』『ゴルフ花伝書』『中部銀次郎ゴルフの心』『ジャック・二クラスの魅力』『中部銀次郎新ゴルフの心』『中部銀次郎ゴルフの流儀』『中部銀次郎ゴルフの極意』など多数。

中部銀次郎がカレドニアンGCを好んでプレイしたのは、攻める面白さが味わえたからだと思う。いつであったか、当クラブの早川治良会長が、中部とのプレイ後の歓談で「カレドニアンの特長はどういうところにあるでしょうか」と尋ねた。
十数年も以前のことなので、精しい会話のやり取りは定かでないが「1番から18番まで類似したホールが一つもない所でしょうね」と応答したのが印象に残っている。国語辞典で<類似>を引くと、<よく似ていてまぎらわしいこと>とあり、<類似品>を例に挙げてある。

いわゆるブランド品にはこれが出回り、本物と偽物の区別がつかない者にはしばしば、騙される。そうした<まぎらわしさ>がカレドニアンの18ホールには一つもないことを<類似>ということばで言い切ったのだ。
 言い換えれば「1番から18番まですべてが本物で、偽物がない。」 そんなニュアンスがあって、印象に残っているのだ。現役時代の中部のコースマネージメントは誠にシンプルだった。

彼はよく言っていた。「ティショットの狙いどころは常にフェアウェイのセンター。グリーンを狙うショットは、ピンがどこに立っていてもグリーンのセンター」
 中部のマネージメントは「センター主義」だった。ところが必ずしもそうでないことをあるとき、N氏から聞いた。N氏は1960年代に日本アマの常連だった。

「いつだったか、日本アマの練習ラウンドにお伴をさせてもらった。練習なのに1打として手を抜かない。たとえばティショットなど、フェアウェイを三等分してターゲットを絞る。幅が45ヤードあるとすれば、左サイドとセンターと右サイドと15ヤードずつ三等分して狙いを絞っていた。だからたとえ、センターに飛ばしても納得しない。15ヤード右へ逸れたとか、左へ逸れたといって原因をチェックする。ピンの位置によっては、センターが必ずしもベストポジションではないというわけ。凄い人だな、と感じました」

中部銀次郎さんのアドバイスは懇切丁寧だった(故・中部銀次郎氏と早川社長)

どうやら「センター主義」を説いたのは、アベレージゴルファーに対する指針だったのかもしれない。N氏からこの話を聞いたのは中部の没後のことである。彼がカレドニアンを初めてプレイしたのは、いつなのかは知らないが、現役を引退したのは1987年で、カレドニアンが開場したのは1990年だから引退後であることは確かである。

早川会長が大の中部ファンであることもあって、西澤忠氏が案内したという。
そんなことから、カレドニアンの有志会員と、中部が日ごろ親しくしている仲間と、年に何回かフレンドマッチをやるようになった。前述の「類似」のコメントは、そんな折の19番ホールで出たのである。その席上で、早川会長がさらにおねだりでもするように 「もう少し具体的に言うと、どういうことですか」と尋ね、アルコールをきこしめした中部はなめらかな口調で応じた。

「たとえば2番のパー5は縦長の三段グリーン、次の3番のパー3は瓢箪を横にしたような横長のグリーン。ですから2番は縦に並んで三つのグリーンが独立してあると思っていい。3番は横に並んで二つのグリーンがある。縦長で縦に対する距離感を試され、横長では横に対する距離感を試される。その上で、縦長では横ブレのないショットを、横長では縦というか、高いショットを試される。ですから、三段グリーンの上段にピンがあるのに下の段に乗せても乗ったことにならないし、瓢箪の右にピンがあるのに左に乗せても乗ったことにならない」

時折、盃を口に運びながらそんなふうに言ったあとさらに「2番と3番だけでなく、18のグリーンがみんな違う形状をしていて、グリーン周りの造形も一つも類似してない。ですから、それに応じた攻め方をさせられる。そこがカレドニアンの面白さじゃないですか」
 参会者のあちらこちらから「さすがは中部銀次郎、伊達に日本アマを6回も勝ってないな」しきりに半畳が飛ぶ。
ラウンド後にみんなで一杯やりながら、そんなひと時を過ごすのは実に楽しく、今となっては懐かしさが募るばかりである。

カレドニアンにて、中部銀次郎氏と早川会長

(2007年9月 TAM ARTE QUAM MARTE 46より抜粋)

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