日本プロゴルフ選手権の意義 菊池 英樹

ミレニアム記念
カレドニアン・ゴルフクラブで日本プロゴルフ選手権の意義
2000年5月11日(木)~14日(日)

菊池 英樹

【プロフィール】
1962年北海道札幌市生まれ。
日本大学経済学部卒業後、ゴルフ雑誌「パフィ」(ソニーマガジンズ刊)副編集長を経て、ゴルフ場のコンサルティング会社「株式会社エナジー」を設立。
「ゴルフはスポーツ」を基本コンセプトとした独自のコンサルティング業務をおこなう一方で、「ゴルフダイジェスト」「ゴルフ場セミナー」「チョイス」(ゴルフダイジェスト社刊)「ゴルフクラシック」(日本文化出版刊)等に於いて執筆及びコメンテート活動を続ける。

2000年のミレニアムを記念した今年5月、カレドニアン・ゴルフクラブで日本プロゴルフ選手権が開催される。

戦略的なコースでプレーヤーの実力を厳しくジャッジし、文字通りプロゴルファーのナンバー1を決めるこの大会。 18番ホールのグリーン上でガッツポーズを決めるのは果たして誰なのだろうか。
その長い歴史の中にカレドニアン・ゴルフクラブの名が刻まれようとしている。

真の実力者が勝利する日本プロゴルフ選手権

日本プロゴルフ選手権の歴史は1926年、関西の名門「茨木カンツリー倶楽部」で開催された第1回大会から始まる。これは、日本オープンの歴史よりも古く、今でも「日本で最初に開催されたゴルフトーナメント」と呼ばれる由縁となっている。

日本プロゴルフ選手権の大きな特徴として、「真の実力者だけ勝利する」ということが挙げられるだろう。第1回大会の宮本留吉プロ、戦前の大会で強さを見せつけた戸田藤一郎プロ、1950年から1960年代にかけてゴルフの普及にも貢献した林由郎、中村寅吉プロ、そして1970年代以降から熱き戦いを繰り広げている尾崎将司、青木功、中島常幸プロなど・・・。優勝トロフィーに名前を刻んでいるのは、その時代を代表するようなトッププロばかりなのである。

「真の実力者が優勝する」。この法則が日本プロゴルフ選手権に於いて成り立っている最大の理由は、開催コースの選定基準に依るところが大きい。  日本プロゴルフ選手権の開催コースを決定するにあたっては、コース自体の戦略性の高さが最優先される。日本オープンの開催コースが「歴史」や「伝統」といった権威性を重要視しているかのようであるのに対し、日本プロゴルフ選手権はゴルフというスポーツをおこなう「競技場としての価値」が徹底的に追求されている。

トーナメントが「勝負」を目的に開催される以上、「真の実力者が勝利する」のは当然ともいえるのだが、残念ながらそうとばかりとは言えないのが現状だ。戦略性が低いコースではゴルファーの実力が反映されず、「まぐれ」や「偶然」といった要素が勝敗を左右するケースが俄然高くなる。

もちろん、ゴルフに「運」はつきもの。
しかし、それはひとつのエッセンスであって決して全てではない。フェアなトーナメントをおこなうためには、あくまでもゴルファーの高いレベルでの技術を引き出す戦略性の高いコースを選ぶことが必須条件となる。2000年という記念すべき年の開催コースにカレドニアン・ゴルフクラブが選ばれたということは、その戦略性の高さが評価され、そして認知されているからに他ならないのである。

カレドニアン・ゴルフクラブの戦略性の高さは、過去に同コースで開催されたビッグトーナメントの勝利者を見ても明白である。PGAフィランスロピートーナメントで優勝した尾崎将司プロ(92年)、三越シニアクラシックで2連覇を果たしたリー・トレビノ選手(91年・92年)、タカラワールドインビテーショナルで優勝した平瀬真由美プロ(94年)ミッシェル・マギャーン選手(95年)、塩谷育代プロ(96年)、リサロッテ・ノイマン選手(97年)、高村亜紀プロ(98年)、そしてローラ・デービス選手(99年)。ここまでビッグネームが揃うケースは、世界中の名コースを探しても稀であろう。

カレドニアンの14番 384ヤード PAR4 グリーンの右はピンの根本が見えない

コースセッティングにより変化する戦略性の高さ

誤解してはいけないのが、戦略性の高さと難易度は異次元のものであるということだ。難しいコースと戦略性の高いコースは「イコール」ではないし、ましてや難しいコースが良いトーナメントコースというわけではない。もちろん、戦略性を高める過程において、ある程度の難易度は必要になるだろう。しかし、それは悪戯にコースを難しくすることを意味するものではないのである。

最近はトーナメントの開催に合わせフェアウェイを狭めてラフを伸ばし、グリーンを締めて固くし安易に難易度を高めるケースが増えているが、それはコース本来が持っているポテンシャルとはいえない。優れた戦略型コースはラフやグリーンの速さといった「コースのセッティング」で難易度を高めなくとも、使用するティグラウンドやグリーンのピンポジションひとつで自由自在に難易度をコントロール出来るのである。

今回の日本プロゴルフ選手権開催にあたって、カレドニアン・ゴルフクラブでは悪戯にフェアウェイを狭めたり、極端にラフを伸ばしたりはしない。そればかりか、2番ホールなど一部のホールではフェアウェイを拡幅しているほどである。それはカレドニアン・ゴルフクラブの持ち備えているポテンシャル自体が高く、普段の状態でも十分にトーナメントの開催に耐え得ることの証でもあるのだ。

ロングドライブを一切拒絶し、尚かつ熟練したアプローチをもってさえも太刀打ちできないようなコースでは、トーナメントの面白味を半減させるだけである。そこで、あらためてその意味が問われるのが、「TAM ARTE QUAM MARTE・力と同様に技(頭脳)も」という、カレドニアン・ゴルフクラブが掲げるコースコンセプトだ。

今から10年前、カレドニアン・ゴルフクラブの開場の際に、設計家マイケル・ポーレットはこう語った。「些細な打ち損じでも厳しく罰せられる選択の出来ないホールと比べ、ティからグリーンまでいくつかの攻め方が可能であるホールは明らかにゴルフの魅力を増すと思います。戦略型コース設計の特徴は『考えるゴルファー』に選択のチャンスを数多く提供します。より慎重なプレーヤーにはより容易で満足のいく攻略法が各ホールに残されている一方、挑戦的な攻略法もあります。

『虎穴に入らずんば虎児を得ず』といいますが、挑戦者には成功すれば大きな収穫が待っている・・・。このような戦略型コースの神髄が、カレドニアン・ゴルフクラブの随所に生きています。」
また、高名なゴルフ史家である故・摂津茂和氏も、コース設計の史的考察「リンクスの再発見」の中でこう語っていた。「マッケンジーがボビー・ジョーンズと共同で設計したオーガスタ・ナショナルにもアーメン・コーナーと呼ばれる11番、12番、13番をはじめ多くのホールに、積極か安全かの二者択一をプレーヤーの判断力と自己評価にゆだねるルートが設定されているのをみても、近代のホールの攻め方がきわめて高度の頭脳的な判断力に依存していることがわかる。従って単に良いショットは良い結果を酬われなければならないという旧来の指向は既に時代遅れで、真の良いショットとは正しい判断力と謙虚な自己評価のもとに打つべき地点に打ったショットでなければならない。」(TAM ARTE QUAM MARTEより再録)

グリーンの右半分を意図的に隠した14番、大会期間中はパー4ホールに変更して果敢なチャレンジを促す15番、そして「力と同様に技(頭脳)も」というコンセプトが見事に凝縮された16番。カレドニアン・ゴルフクラブのアーメン・コーナーとも呼べるこれらのホールを、トッププロ達はどのように攻略するのか今から楽しみである。

カレドニアン15番ホール 490ヤード PAR5(日本プロではこれをPAR4に)
右・設計家J・マイケル・ポーレットと、戸張捷氏

日本プロゴルフ選手権を洋芝コースで開催する意義

「ゴルフ・コースの性格はパッティング・グリーンの構造にかかっている。ゴルフ・コースにおけるグリーンは、いうなれば肖像画における顔である。」  これは摂津氏が、USGA初代副会長でコース設計にも造詣が深く多くのコースを建設してアメリカのゴルファーの目を開いたといわれているチャールズ・マクドナルドの名著から引用した言葉である。この精神を尊重した早川社長は我が国でもいち早くワングリーンの重要性を認識し、富里ゴルフ倶楽部、そしてカレドニアン・ゴルフクラブに於いて見事に実現させた。

グリーンは本来、そのホールの最終ターゲットであり、ゴルファーはそのターゲットに向かってプレーするものである。小さなカップに向かうにつれて、ターゲットが狭められるのがゴルフの本質であって、最後の最後で焦点がぼやけるツーグリーンは邪道以外の何ものでもない。高温多湿という日本の気候条件が生んだツーグリーンではあるが、トーナメントコースとしてはあってはならないものなのである。
戦略型コースの条件として今やワングリーンは絶対的なものといえるのだが、コース内の洋芝化も欠かすことのできない大きな要素と考えられている。

特に、日本プロゴルフ選手権のようなビッグトーナメントを、地球温暖化に備えて洋芝最後の年とするカレドニアン・ゴルフクラブで開催する意義は大きい。
「日本のゴルファーが海外で活躍できないのは日本のコースがやさしすぎるから」といった声をよく聞く。

そしてその最大の要因は、葉が固く立つためボールが常にティアップされた状態になる高麗芝のフェアウェイや、切れやすくペナルティの意味を成さない野芝のラフといった日本特有の芝の品種に問題があるといわれている。海外の主なトーナメントコースは葉が柔らかくボールが沈み、クラブヘッドに絡みつく洋芝が主で、それ故にプレーヤーの技量がシビアにジャッジされる。

「飛ばす」とか「止める」とかといった以前に、洋芝の場合は「正しくヒットする」というゴルフの基本的な、それでいて高度な技術が要求されるのである。
残念ながら日本プロゴルフ選手権の終了後、カレドニアン・ゴルフクラブでは在来品種の芝に戻す作業に入る。想えば、日本のゴルフ場にいち早く洋芝を取り入れたのは朝霞に場所を移した東京ゴルフ倶楽部。

1932年春、相馬孟胤子爵の熱意によってエバーグリーンが実現し日本のコースも世界の名コースの仲間入りを果たそうとしてのだが、その後の高温多湿の異常気象により、その短い歴史を閉じている。カレドニアン・ゴルフクラブの崇高な精神が評価されるには、もう暫く時間を必要とするのだろう。

設計上の戦略型コースであるだけではなく、使用する芝の品種的にも戦略型コースといえるカレドニアン・ゴルフクラブは、今や名実共に世界の名コースと呼ばれるに違いない。2000年という記念すべき年の日本プロゴルフ選手権が、特別な意味を持っているのも頷けるのである。

カレドニアン16番ホール 343ヤード PAR4

(2000年3月 TAM ARTE QUAM MARTE 28より抜粋)

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